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横浜地方裁判所 昭和31年(わ)1317号 判決

被告人 村田稔

主文

被告人は無罪

理由

本件公訴事実は被告人は何等正当の事由がないのに昭和三〇年九月末頃横浜市西区宮崎町七番地所在井口トメ所有の木造平家(建坪二合五勾)一棟を損壊したものであるというのであり尚検察官は附演して本件家屋は昭和二六年五月頃井口マスが被告人から買受け同人の死亡後同人の相続人等より井口トメが贈与を受けたものであるとし被告人は本件家屋は自己の所有で自己の所有権に基き取壊したものであると主張する。よつて按ずるに証人村田きく子、同村田愛子、同村田巳之吉、同窪専次郎及び被告人の当公廷に於ける各供述並びに被告人の検察官に対する供述調書によれば本件家屋は元相磯秀雄の所有で同人より被告人が昭和二四年頃買受けて以来被告人の所有に属して居たが被告人の親友井口松太郎が昭和二六年九月三〇日病死した后同人の妻井口マスの懇請により昭和二七年五月頃本件家屋を同人に賃貸して同人を居住せしめたこと其の際亡友の妻でもあるので賃料は確定せず大体月四、五千円でよいとしていたこと、及び昭和二八年一二月頃井口マスより七万円を居住以来の家賃並びに礼金として被告人が受領した事実は認められるが井口マスが被告人より本件家屋を買受けたという点についての証人手島キイに対する当裁判所の尋問調書の供述記載及び証人井口トメ、同雨宮薫の当公廷における各供述は何れも伝聞に属し信用し難く其の他本件家屋を井口マスが被告人より買受けて其の所有権を確実に取得した事実を認めるに足る証拠がなく却て前記証拠並びに相磯秀雄名義の徴税令書によれば井口マスが本件家屋に居住している間も被告人に於てその家屋の固定資産税を納付していたこと及び井口マスが賃料並びに礼金として昭和二八年一二月頃七万円を持つて来た際同人より被告人に対し本件家屋を売つてくれとの申込はあつたが被告人に於て家屋は直ぐ壊して下宿屋を建てるので売ることはできないと拒絶した事実が認められるので本件家屋の所有権は依然被告人に属していたものと認めるのが相当である。従つて本件家屋を井口トメが井口マスの相続人等から有効に贈与を受けたか否かについての判断を示すまでもなく本件公訴事実は罪とならないので刑事訴訟法第三三六条により被告人に対し無罪の言渡をすべく主文の通り判決する。

(裁判官 福島昇)

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